住育ワークショップ

KMKa2011-11-23

先日、武蔵野市の小学校で行われた空間ワークショップに参加しました。このワークショップは、小学生に自分たちの住んでいる家や街のことを身近に考えるきっかけを与え、また建築家という職業を知ってもらうワークショップです。日本建築家協会の建築家の方が中心となって、今回が6回目の開催となるということで、小学校の教育の一環としてしっかりと根づいたものになっていました。
ワークショップでは何をするかというと、90センチと180センチの木の棒を2種類と太めの輪ゴムを使って、自分たちの住みたい家を建てる、というものでした。プレ授業で、建築家の高田典夫さんが、形と力の流れについての基本をご指導されており、三角形を作って支える、というシンプルかつ根本的な原理の理解のもと、制作がはじまりました。小学生が6〜7人のチームとなり、そこに建築家が二人サポートにつく、という体制です。当日は雨が降り、学校の教室、ピロティ、講堂などに分かれて作業が始まりました。
私の参加した班は、ドームの家をつくる、というテーマで、そのドームをどう作るか、というのが最大のポイントでした。木の棒で丸いドームをどう作るか、という問題には、短い棒を何段階かに分割してドームのような天井をつくる、ということにし、六角形の天井部を壁から持ち上げる、という仕組みで作ることにしました。作り始めてから2時間ほどでほぼ形は出来上がり、出来上がったものは、モンゴルのパオ(包)のような空間でした。とにかく考えるより先に手足を動かしてどんどん形を作っていく小学生のパワーと自由さに圧倒されっぱなしだったのですが、作りながら、ここを止めないと倒れる、とか、ここをつなげばいいんだ、など、力の流れをその場で体感しながら家を支える軸組みというものを何となく理解する、ということの意味を感じました。また、私の参加したチームは、家が出来上がった後、残った材で池や犬小屋を作り始めたり、布で部分的に装飾をつけたり、その場全体の環境を楽しく仕上げようという感覚が自然に生まれていました。
ワークショップが終わった後は、すべて解体し、使用した木材、輪ゴムはリサイクルし、来年も使います。解体も片づけもすべて小学生がやるのですが、解体するときに「壊したくない」「この家に泊まりたい」など小学生がつぶやいていたのがとても印象的でした。このような体験がきっかけとなって、小さいころから自分の住む家や街のことを自然に考え、観察するような感覚が身につけることは、住空間を豊かにするにはとても重要な体験だと思いました。(MK)

メタボリズム展

KMKa2011-10-20


もう開始から1ヶ月以上経ってしまいましたが、企画に参加しました「メタボリズムの未来都市展」が現在六本木の森美術館で開催中です。
メタボリと言うと、すっかり日本では腹回りのことになってしまっていますが、世界の建築界ではとても有名な1960年代の日本の建築運動です。大規模な都市計画のイメージが強いのですが、実はこの運動の元になっているのは人の住まいです。この時代は現在と反対に、日本の人口は右肩上がりに増えており、特に都市の人口にどのように良好な住宅を供給するかがメタボリストたちに共通する問題意識でした。

展覧会は、メタボリスト運動の起こる以前の戦後の背景から描く、かなりディープな内容ですが、一般社会の流れや、同時代のアートや音楽なども含んでいるので、多角的に楽しめるようになっていると思います。また、今回新しく製作したCGや模型も圧巻です。入場料を払わなくても楽しめるものとしては、会場の外の六本木ヒルズの足元に黒川紀章さんの中銀カプセル住宅のひとつが置いてありますので、お見逃しなく。

私は槇文彦氏の事務所に勤務していた関係で、主に槇さんの担当をしており、カタログに「都市と群集」という論考を書かせていただきました。
また、来週26日に今村創平さんとギャラリートークを行います。
10月26日(水)19:00−20:00
出演者: 今村創平、松下希和
テーマ: 菊竹清訓槇文彦
会場: 森美術館展示室内(展覧会場入口にお集まりください)
定員: 各回15名(当日先着順、予約不要)
料金: 無料(要展覧会チケット)
http://www.mori.art.museum/contents/metabolism/public/index.html

お時間がありましたら、是非展覧会に足を運んでいただければと思います。(KM)

*仮設住宅

KMKa2011-09-24

大震災で住宅を失った被災者の方の仮設住宅は、これまではプレハブ建築協会があたり、早急、安価、大量に仮設住宅を供給するのが一般的でした。しかし東日本大震災では、必要とされる仮設住宅の数が非常に多く、また必要とされる地域も東北地方全体にわたるため、プレハブ建築協会だけではまかないきれず、建築家や大学の研究室等の計画案が様々な形で建設されています。先日いくつかの仮設住宅についてお話を伺う機会がありました。また、東京建築士会の機関誌でも詳しく紹介されています。これらの計画がこれまでの仮設住宅と大きく違うのは、地元のも木材を使用した「木造」の住宅であること、仮設住宅をつなぐような半屋外のデッキスペースなど住民が共有して使うコミュニケーションの場が設けられていること、各戸の入口が対面配置になっていることなどです。福島県のいわきニュータウン仮設住宅は、杉を使った「板倉構法」で、杉の厚板で床、壁、屋根をつくる仮設住宅です。ここで使用された杉は、仮設住宅のあとは、復興住宅に転用されることを考えられています。また資材不足になった合板や断熱材などの代わりに、杉の厚板を多層張りと空気層で壁の断熱性を確保したり、屋根はススキ、床にはモミガラを断熱材として使用して、全て自然素材でできた仮設住宅ができあがった。また岩手県遠野市仮設住宅では、様々な6坪、9坪、12坪と広さの異なる住戸プランが提案され、多様な家族が住まうこと、また住宅を結ぶ屋根がかかったデッキスペースやコミュニティ菜園が計画され、仮設住宅の敷地内に、子供が遊んだり、お年寄りが会話をしたりする場がつくられています。このようないくつかの仮設住宅は、「木」という自然素材のもつ「ぬくもり」や、コミュニケーションの場の存在など、明らかにこれまでの仮設住宅にはなかった「温かさ」があるように感じました。(写真は、すべて社団法人日本建築士会連合会建築士」9月号より)(MK)

フランクフルト・キッチン

frankfurt kitchen


なでしこジャパン、すごかったですね!!!
負けているときは、こちらが「もうここまで立派に戦ったのだから、十分。」と諦めていたのに、彼女たちは諦めないで戦い続けました。
特に延長戦後半の終了間際に得点するとは、本当に脱帽です。技術、体力以上に精神力に脱帽です。

なでしこが快挙を遂げた場所、フランクフルトは1920年代に「世界最初のシステム・キッチン」が女性建築家によって作られた場所です。
女性の建築家がほとんどいなかった時代に、信念を持って低所得者のための集合住宅を手がけ、女性の労働力の軽減を目指して、効率的で精密なキッチンを設計したのはマーガレット・シュッテ・リホツキーという女性です。彼女もまた、高い能力と共に、強い精神力を持った人でした。リホツキーがエルンスト・マイと共に「フランクフルト・キッチン」を設計し、ロシアに渡って多くの集合住宅を手がけたのは、20代から30代前半のこと。それから、彼女の精力的な仕事への情熱は戦争によって大きく狂わされてしまいます。反ナチス活動のため、40代の数年を過酷な収容所で過ごし、戦後もそのためになかなか大きな仕事には恵まれませんでした。

それでもリホツキーはなんと103歳まで強く生きぬき、後進のために働きました。

恐るべし、女子力。見習わねば。

※ リホツキーのようなすばらしい先人の作品を集めた本を執筆中です。出版された暁には是非お手にとってごらん下さい。
(KM)

照度測定

KMKa2011-05-26

非常勤講師をしている某J美術大学で、学生に身近な環境を観察・測定することをやっています。今年は震災後の節電意識が高いので、学生も意識が高まっていたようで、興味深く測定していました。その中で、授業をやっている教室の照度測定を行いました。教室は北側採光の窓に面していて、講義をやっている間は、パワーポイントがみえるように暗幕カーテンを閉めています。天井高さは3m弱で、照明の設置されている高さは、およそ2.5~2.6mあたりだと思います。残念ながら当日は曇天で、測定時間も夕方4時ころだったので、北側の安定した太陽の光を十分利用できる、という環境ではありませんでした。
1枚目は、暗幕を閉めて、照明を全灯した場合、教室の真ん中あたりでの机の上の照度はおよそ800~830lxでした。照明を半分にすると、360lx程度になりましたが、講義を受けるような場合は、学生は明るさに問題はない、と言っていました。カーテンを開けた状態では、120lx程度しかありませんでしたが、これは測定条件があまり良くなかったためで、晴天の日中であれば、窓からの光は十分だと思います。ただ、窓からの光は室奥にまでは十分届きませんので、照明器具で補足する必要があります。
JISが推奨している照度基準というものがあります。学校の教室、実習室などは、200~750lxとされており、写真を比べてもだいぶ明るさの範囲が広いです。製図室は300〜1500lxで、これもずいぶん範囲が広く、測定した部屋は作業室も兼ねているので、照明による明るさには問題はないですが、講義で使う場合など、作業内容によって、照明器具をこまめに使い分けることを意識するのが大事です。また、そのためには、スイッチの系統をきちんと計画することが大事です。この教室は、縦方向と横方向にいくつか分割されていて、窓際だけ消す、前だけ消すなど、照明の点灯範囲がきちんと使い分けられるようになっていましたが、他の大学の教室などでは、そういった系統わけが使い方にあっていないこともよくありました。
これは住宅の照明計画でも当てはまることで、同じ部屋の中でも窓際と室奥のスイッチを分ける、調光スイッチにする、全般照明は暗めにして手もとスイッチで必要な部分だけ明るさを確保する、など色々な手法があります。家庭での電力消費は、「エアコン」「冷蔵庫」「照明」が主です。これからの季節は、日が長くなりますし、照明器具の発生する熱で室内が熱くなるのを防ぐ、という点で、照明を消すというのは、トータルで有効です。ちなみに、我が家の天井照明(蛍光灯)部分とそのまわりの天井の温度は、38.1℃と23.9℃で、およそ14℃の差がありました。照明の使い方を上手にして、これまでの明るさを見直してもいいかもしれません。(MK)

パッシブ環境デザイン

KMKa2011-05-08


GW最後の日曜日、今日は暑かったですね。
夏のようでした。
本格的な暑さに向けて、対策を考えさせられました。

去年の猛暑の記憶も新しい中、今年は節電も考えなくてはならず、暑くなるのは憂鬱です。
実は個人的には寒さよりは暑さの方がマシと思っているのですが、去年のような猛暑だと「暑さに強い」とはとても言えなくなりました。

暑い夏、寒い冬の対策として住環境にもさまざまなデザインの方法がありますが、節電や二酸化炭素の排出を抑えることを考えると、やはり特殊な機械や電気を使うアクティブ・デザインだけではなく、敷地の環境や特性(風向きや方位など)を生かすことで住環境を向上させるパッシブ・デザインを考える必要があると思います。

打ち水や簾を掛けるなど昔からのやり方が見直されています。蔓系の植物(ゴーヤ、ヘチマなど)を南向きの窓際に生やす緑のカーテンもとても効果的だそうです。夏には風通しのいい1階で過ごし、冬は機密性の高い2階で過ごすなど環境に即した行動をとることも重要です。ただ、やっかいなことにパッシブはアクティブよりお金はかかりませんが、手間がかかってしまいます。私なども楽に快適に、という習性が身についてしまったので、なかなか生活に手間をかけることを惜しんでしまいがちなのですが、快適に住まうためにできる簡単な方法をいろいろ考え、ご紹介していけたらと思っています。(写真は桂離宮の濡れた石畳です。水に光る石は見た目にも涼感がありますね。)(KM)

武相荘

KMKa2011-04-14

先日武相荘に行ってきました。ご存知の通り、白洲次郎・正子夫妻がお住まいになっていた住宅で、現在は一般公開されております。この住宅は、鶴川村の農家の民家を、生活に応じて室内を改修し、様々な工夫がされています。例えば、民家の象徴である広い土間だった部分には、床暖房が打ち込まれたタイル敷きの広間になり、また二軒の古民家の間には食堂が増築され、正子さんが執筆活動に専念した書斎が下屋として一番奥の間に増築されています。「田の字+土間」という典型的な民家の平面を工夫して自分たちの生活にあわせて手直ししていったのでしょう。そこにはいわゆる商業的な「古民家調」という安易なイメージではなく、奇を衒わない生活に密着した空間を体験できます。
また、住宅内部にはご夫妻愛用の陶器や小道具が展示されています。そのなかには、本来の使われ方とは違う使われ方をしているものもいろいろとあります。物を再利用したり、捨ててあったものを他の使い方をするというのは、今で言う「エコ」的な考えにつながるのかもしれませんが、ここで感じられるのはそういう次元以前の、身の回りにあるものを大事にし、誰かにとっては価値のないものが他の人にとっては価値がある、というような「再発見」の喜びでした。昨今の「エコ」は、「抑制」し、「節約」し、と抑え込む発想が強くて反発する人もいると思いますが、今まで余分な状態やものの使い方を整理して、本当に必要な分だけを工夫して使うことが本来の「エコ」の発想なのではないか、ということを改めて実感するよい機会となりました。(MK)