遊び心

KMKa2011-02-01


相方のブログでも紹介してもらいましたが、先日「やさしく学ぶ建築製図」という本を上梓しました。本の主目的は初めて建築を学ぶ人が製図の方法を学ぶためのテキストなのですが、その製図の題材にルイス・カーンのフィッシャー邸という住宅を使っています。

この住宅は1967年、アメリカのフィラデルフィア郊外にフィッシャー夫妻のために建てられました。本の取材のために実際のものを見に行ったのですが、これが本当に素晴らしかったです!写真で見ているだけでも良い住宅だと思ったのですが、写真写りの良いということもありますし、実際見るとそんなに良くないということも多いのですが、この住宅は写真を超えました。これは同行してくださった写真家の栗原宏光さんも同感だったので間違えありません。

なにがそんなに素晴らしいのか、というのは簡単に言い切れませんので、追々説明できればと思うのですが、写真で撮りきれないというのはその瞬間、瞬間の光のうつろいでしょうか。名住宅と言われるものの中では、とうてい住めないと思うようなものも多々あるのですが、これは初めて来ても懐かしく感じるような、とても新しいコンセプトを打ち出しながらも「心地よく住まう」ということに妥協がない家で、今すぐに引っ越してもいいと思ったくらいでした。

紛れもなく、20世紀の名住宅のひとつに挙げられる作品だと思いましたが、実際に行ってみて本では分からなかった細やかな工夫がなされていることにも気付きました。例えば、玄関脇の壁が一部パネルのようになっています。設備機器などが入っているのかと思い、パネルを押すと中には子供の屋外用遊具が入っていました。家に入る前に外で使った遊具をこっそりしまっておく場所。ここで育ったフィッシャー夫妻のふたりの娘のためのカーンの遊び心あふれる工夫です。

それを見て、この家に対する配慮の深さにますます感動を覚えました。(以下にそのとき撮影した写真を載せますが、私の撮った写真はあまりよくないです・・・。是非本書の栗原さんのお写真をご覧下さい。)(KM)


作りつけ家具のある名作

KMKa2011-01-29

某女子大での授業で、藤井厚二の「聴竹居」をとり上げています。その授業は環境に配慮したデザインを勉強する授業なので、「聴竹居」で試みられている環境への取り組みを紹介していますが、「聴竹居」をはじめ、藤井厚二の設計した住宅を見ていて面白いのは、「作りつけ家具」の豊かさです。時代的には「座」式から「椅子」式への移行期でもあり、床の高さなどにその工夫がみられると同時に、椅子や椅子に座ると必要になる机のほかにも、床棚や照明器具、建具などそのほとんどすべてをデザインしています。移動できる置き家具も個性的なのですが、特定の場所に「作りつけられた」家具は、建築の一部となってまさに「家具」以上のものとなり、その場になくてはならないものになっています。窓のすぐ横に設置されたソファベンチや、壁の一部をなしている飾棚などは、一つ一つの家具に仕込まれた工夫や建築との取り合いを見ているだけでも面白いし、もしそれがなかったらその場の豊かさが半減してしまうようで、なくてはならない存在にまとめられています。海外の作品では、ルイス・カーンの設計した「フィッシャー邸」のベンチと暖炉があります。「フィッシャー邸」は二つのキューブが重なりあったシンプルな箱の建築ですが、リビングに作られたベンチと暖炉は大きな一つの空間のなかに、特定の場所を生み出す絶妙な装置として作られています。「フィッシャー邸」でもベンチと暖炉がなかったら、ずっとさみしい空間になってしまうように思います。
作りつけ家具は、建物の設計と同時にしなくてはならないので手間もお金もかかります。でも、その場にしかない「オリジナル」の家具は、住宅のなかに楽しい場所を生み出してくれます。「作りつけ家具」は、移動できない、壊せない、など不安もあると思いますが、特別な場所となって、誰かの「居場所」となると思います。住宅を考えるとき、どこかに「特別な場所」を作ってみるのはいかがでしょうか。
ちなみに、「聴竹居」は小泉和子さんの書かれた「『日本の住宅』という実験」という本に色々な家具の詳細が紹介されています。「フィッシャー邸」は色々な本が出ていますが、このHPのニュースにも紹介されていますKMKaの松下が共著で参加している「やさしく学ぶ建築製図」に写真家栗原宏光さんの撮影された写真が掲載されています。
(MK)

リノベーション

KMKa2011-01-19


現在書店に並んでいる「東京人」の特集は「リノベーションとシェアハウス」です。
日本でも新築ではなく、中古の家をリノベーションして住まうことが少し認知されてきたのでしょうか。
学生時代ボストン郊外で住んでいたアパートは、レンガ作りの元オフィスビルだった築80年の建物でした。
4階建てで4階に住んでいたのにエレベーターはなく、暖房も古いので音がうるさいアパートでしたが、その反面階段の手すりが建設当時のままのマホガニーだったりして、重厚さが感じられました。

日本はそんなに古くない家もすぐ壊してしまうことが多いですが、それはやはり建物に比べて土地の価値が以上に高いことと、人が設備的に新しいものを求めるからではないかと思います。そういう短いサイクルで建て換わる前提なので、あまりいい建て方をせず、いい材料も使わず、後世に残る住宅を作ることが少なくなってきています。

でも、中古の家ってそれなりの味があっていいものです。
現在の事務所も築3,40年だそうですが、アルミサッシでなく木製の窓枠で、外装なども雰囲気があります。
木製の窓枠はアルミサッシよりも気密性は断然落ちてしまうので、今の「高気密・高断熱」トレンドとは異なりますが、
古い家を手入れして大事に住むのもエコだと思うのですが。

設計者とすると、新築物件が減るのはちょっぴり残念な気もしますが、リノベーション、リフォームの設計も承っておりますので、どうぞご相談下さい!(KM)

あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。
年末年始はとにかくキッチンが大活躍します。小さい頃は、母が作るおせち料理の手伝いでキッチンと家の中を行ったり来たりしていました。年が明けると、お雑煮やお餅を焼いたり、これまた結構キッチンにいることがあります。三が日は主婦が台所に立たなくてすむためにおせち料理がある、と聞いたことがありますが、どうしたってそういう訳にはいかないですよね〜。
家族の人数が多かった時代はキッチンが多少離れていたり囲まれていても、それなりに家族の気配を感じることはできたでしょう。でも、今のように家族の人数が少なくなったり、防音性が高くなった壁や、ドアが多い住宅では、キッチンを離れて作ってしまうと、お互いになかなか気配を感じることができなくなってしまいます。
キッチンは、食生活を司りながら、家族のコミュニケーションの起点となる大事な場所です。近年はセミオープンやオープン型のキッチンも多くなって、ダイニングとキッチンがつながっている住宅はよく見かけるようになりました。でも、キッチンから個室や階段といったほかの部屋まで見える住宅はどれくらいあるでしょうか?玄関からの家族の出入りや子供室の明かりなどが見えるような関係にあると、キッチンで何か作業をしながら家族を見守ることができて、時間の節約にもなるし、コミュニケーションのきっかけが増えると思います。プランを考えるときに、キッチンからの視線の範囲を少し広げるような計画を考えてみてはいかがでしょうか。(MK)

ピアノ・ノビーレ

私が今住んでいる家の居間は2階にあります。通常の間取りですと1階に玄関、居間があって、2階に寝室や風呂があることが多いのではないかと思いますが、この家の場合は1階が寝室・風呂、2階が居間・キッチンになっています。

イタリアのルネサンス期の邸宅では、居間などがある主階(ピアノ・ノビーレ)が2階にあることが多かったそうで、この家の設計者もそれを意識した、などと言っているのですが、要は1階の目の前に隣の建物が立ちはだかっていて、昼間の時間を過ごすことが多い居間にあまり日射が入らないため、2階に配置したようです。

居間は1階がよいか、2階がよいか。もちろん、ケース・バイ・ケースの状況によって違いますが、一般的にもそれぞれいいところがあります。
1階の居間: 玄関に近いため、人が来たり、家族が帰宅したりなどの様子がすぐわかる。
       食料などの買出しに行ったとき、階段を上らなくてもキッチンに行かれる。
       お客さんなどをもてなすパブリックな部屋が下で、寝室などプライベートな部屋が上階というふうにはっきり区分される。
2階の居間: 一般的に日射が入りやすいので明るく、見晴らしがよい。
       バルコニーなどがあれば、居間とバルコニーを連動させることができる。

上記の特徴は、相手方には短所となりえるのですが、それもいろいろな工夫でカバーできるものもあります。
結局は各々のライフスタイルによるのだと思うのですが、定石にこだわらず、様々な可能性が考えられると思います。(KM)

大きなダイニングテーブル

KMKa2010-12-22

最近、家具の寸法をよく考えます。住宅は様々な家具が使われますが、何といっても生活の中心はダイニングテーブルだと思います。設計をするときに、よく「リビングは10畳以上」とかリビングについては具体的な広さやソファの配置の希望をうかがいます。でもダイニングについてはあまり具体的な希望が少ないような気がします。そんなとき、ダイニングテーブルの大きさ、というのを想定するのがいいのではないかと思います。
住宅でダイニングテーブルというのは、ただ食事をするためのテーブルではなく、子供が宿題をやったり、新聞を読んだり、家族会議をしたり、親が子供を叱ったり、テストを見せたり、アイロンをかけたり、とにかくいろいろな生活行為が行われる場所であり、特に子供が小さい頃には家族が一番長く時間を過ごすスペースなので、小さなテーブルで食事ができればいい、というものではないと思います。長さは短くても2mくらいとれると、家族がいろいろなことを同時に行えるような受け皿になるのではないかと思います。3月まで勤めていた大学の研究室には、長さ4mの大机があって、25人くらいが集まってゼミをやるときもあれば、数人がおひるごはんを食べている横で誰かが模型を作っていたり、コーヒーを飲んで休憩している人の横で建築雑誌を見ている人がいたり、と好き勝手に机によっていろいろな事をしていました。そうすると、お互いがやっていることに意見をいったり、話をしたり、ということが自然に行われていました。
4mの机というのは、よほど大邸宅出ない限りはまず無理です。特に小さな住宅では、ダイニングが隅に追いやられる場合がありますが、スペースに余裕がない時は、むしろリビングをやめて、ダイニングリビングをつくるほうがいいのだ、と思います。食事は家族にとって一番大事なコミュニケーションの場でもあり、ダイニングテーブルが大きければ、食べる時間がそろわなくても、食べている横で子供が宿題をしたり、本を読んだりすることができます。戦後のリビング主義が住宅を支配していますが、「食育」の重要性が見直されている今、ダイニング主義というのもいいのではないかと思います。(MK)

北欧デザイン

KMKa2010-12-11


北欧の家具やプロダクトのデザインが好きです。イタリアのデザインも粋というか素敵だと思うものはあるのですが、北欧のデザインは生活の中に取り入れてもしっくりくる感じです。北欧デザインは日本のデザインと波長が合うのかもしれません。

イッタラというフィンランドの食器メーカーが、アールト・デザインのグラスを作っていて、価格もリーズナブルなので集めています。グラスの周りにリブが入っているのが特徴で、このリブのお陰で、持ち上げやすくなっているだけでなく、グラスの強度も出ているのではないかと思います。もちろん、見かけもシンプルでエレガントありながら、実質的なデザインです。
アルヴァ・アールトといえば、フィンランドでは作曲家のシベリウスと並んで国民的芸術家として名高い建築家で、お札にもなっていますが(そして、最近「ヘルシンキ工科大学」という国立大学も「アールト大学」という名前になったそうなのですが。)このグラスのデザインをしたのはアールトの奥さんのアイノ・アールトです。夫があまりに有名なので、ついその影に隠れがちなのですが、アイノ・アールトも優秀な建築家であり、彼女ひとりで設計をしたプロジェクトもありますし、夫よりも実務に秀でていて、前半のアールト事務所の実作は彼女の貢献度がとても高いそうです。

写真を見ると、若い頃のアルヴァはとてもハンサムですが、アイノは笑顔は優しく素敵ですが、がっちりしていて実質的な肝っ玉かあさんのような感じに見えます(失礼ながら)。彼女のデザインしたグラスも華奢なところは全くなく、毎日使っていても飽きないシンプルさと耐久性を備えています。やはりデザインには人柄が反映されるのだなぁ、と思います。

残念ながらアイノは40代で亡くなってしまいます。彼女がもっと長生きをしていたら、どんなデザインをしていたのか、グラスを見ながら想像しています。(KM)