北京のヘルツォーク&ド・ムーロン

KMKa2008-08-04





日曜日にドキュメンタリー映画「鳥の巣:北京のヘルツォーク&ド・ムーロン」を観に行って来ました。

数日前に新聞にかなり大きく取り上げられていて、封切り直後だったので凄く混んでいるかと早めに行ったのですが、思いのほかガラガラでびっくりしました。このところ、毎日見ないことはないくらい有名なこの建物は、案外興味をもたれていないのでしょうか。

映画としては薄味な出来でしたが、私にはそれなりに面白かったです。
中国の価値基準については改めて考えさせられました。スタジアムのコンペの際に、ヘルツォークの案を「鳥の巣」だと言ったのは、彼ら自身でなく、中国のメディアだったそうです。あの形態が「鳥の巣」と見立てられ、そして「鳥の巣」は不死鳥を呼び込む縁起のいいものだったために、あの案に決定したということです。反対に、思わぬ損をしたのは、緑色のドーム型屋根のついたスタジアムを提案したフランスの建築家、ジャン・ヌーベルで、緑のドームが「緑の帽子」や「緑の亀」を思い起こし、それらの意味が「妻の不貞」だったために、不評だったそうです。こうなってくると、デザインの良し悪しが全く別の基準で量られていることがわかります。私も以前勤めていた槇事務所で、シンガポールの仕事を担当していたときにも似たようなことはありましたが、目覚しい近代化を遂げていても必ずしも思考のプロセスは合理的とは限らず、特有のものが根強くあるのだな、と感じました。映画の中で「世界はいずれ中国を理解するようになるだろう」と言っていた建設の責任者の自信に満ちた言葉が印象に残りました。

私にとっては「懐かしい」映画でもありました。10年ほど前、私は大学院でヘルツォークたちのスタジオで学びました。その頃、彼らの一番大きな仕事はテート美術館で、もちろん十分有名人ではありましたが、携帯も持っていない時代で、映画の中の彼らよりずっと時間に余裕があったのだと思います。ジャックかピエールのどちらかが3〜4週間に1回くらいボストンに数日間来て課題を見てくれたのですが、滞在中は他にすることがそんなになかったらしく、我々学生と夕飯を食べに行ったり、キャンパスの建物を見て回ったりしました。指導は動線計画や騒音の話など非常に具体的、且つ実践的なことを教えていただきました。映画でちょっと意外だったのは、ふたりの中でどちらかというとスポークスマン的な役割をするのがジャック・ヘルツォークだと思っていたのですが、北京の仕事はピエール・ド・ムーロンの担当だったことです。私の印象ではピエールは非常に「まとも」な発言をする人で、ジャックは時に煙に巻くような不思議なことを言う人なのですが、「まとも」路線の方が中国受けはいいという戦略でしょうか。

「鳥の巣」は建築として賛否両論、様々な意見が出ていますが、21世紀に建てられた建築の中で、最もシンボリックな建物であることは事実だと思います。その建物の「メイキング」映画、いろいろ考えるきっかけになるのではないかと思います。(KM)

ユーロスペースにて公開
http://www.torinosu-eiga.com/